Yukibou's Hideout on Hatena

自分用備忘録的な何か。

土地を売ってAppleWatchを買った、そんなお話。

突然だがAppleWatchを買った。

話は1990年に遡る。

自分はいま会津若松市に住んでいるが、その頃実家があったのは、50kmほど離れた町だった。

なんで会津若松市に来たのかというと、それには大きく2つの理由があって、まずは自分が会津若松市にある高校に合格したこと。そして、母が一身上の都合があって務めていた会社を退社する事になったことだ。

どうせなら母と自分の2人で会津若松に引越してしまおうという話になった。祖母と祖父は当然元々の実家に思い入れがあるので残った。

だから、自分が実際に本当の実家に住んでいたのは15年間。もう人生で自分が生まれた町に住んでいた時間を、引越し先の会津若松で過ごした時間が、大学で群馬にいた時と東京で働いた時間を差し引いいても上回ってしまった。

それから数年が経ち、実家が国から立ち退きを要求される事になった。国道の拡張計画に引っかかったのだ。

祖父は最後まで反対した。祖父は半ば駆け落ちのような状態で実家のある熱塩加納村から祖母と一緒に出てきて、裸一貫から80平米の土地を買い、あれだけ立派な家を建てたのだ。自分の血肉とも言える家と土地を売る気はなかった。

だが、周りの家がどんどん買収されて、もはやそのエリアに残っているのはウチだけだった。お茶飲み仲間もいなくなり、祖母は寂しがった。決定的だったのは、自分が東京での仕事を切り上げて実家に帰ってくる意志があるという事実だった。

その「実家」というのは、母が住んでいる会津若松のことであり、祖父が頑固に守りぬいている家の方ではなかった。

「ゆきぼうが帰ってくるなら会津若松だってよ」という事実は、祖父の心を動かし、自分の城とも言える家を手放すことになった。幸い国道である。新たに会津若松に土地を買うのに十分なお金が手に入った。

そして、会津若松にいまの家を建てた。祖父と母が貯蓄していたお金があったので、キャッシュで買えた。ノーローンである。それがどれだけ凄いことなのかは、当時の自分にはわかっていなかった。

家は売ったが土地は残ったままだった。祖父が、いつか戻る日が来るかもしれないとして、土地だけは売らなかった。拡張工事の分だけ売って、あとは残していた。

例の国道の工事が終わり、後で見に行ったことがある。家があったところには瓦礫が散乱していた。そして、拡張された部分というのは、わずか2メートルほどの歩道だった。

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※実家のあった土地。瓦礫が残るばかり。

 

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※拡張された部分は赤い歩道。2mくらいの広さだろうか。

これを作るために町はここら一帯の土地を買い、自分が子供の頃からあった小さなコミュニティを解散させたのだ。少しさびしい気になった。

実は、残された土地も何度か買収の提案があった。近くに養護施設が出来たので、その拡張を見込んで地元の土建会社がよく話をしに来たのだ。

だが、祖父は頑として売らなかった。祖父がそれこそ血を吐く思いで何も無いところから手に入れた土地には相当な思い入れがあり、どうしても譲る気にはなれなかった。結局養護施設の拡張計画はなくなったため、その後誰も土地を買いには来なくなった。

2005年、祖父が亡くなった。人生で初の身近な人間の死だった。正直どうしていいかわからなかった。祖父が駆け落ちして本家を出てきたので、いままで葬儀に呼ばれるという経験をしたことがなかった。何かあったら祖父が全て行っていたのだ。

なにがなんだかわからないまま祖父の葬儀が終わり、火葬場に行った。最後に棺桶の蓋を閉じる釘を打たれた時、初めて母が泣いた。自分には母の肩を抱くことしか出来なかった。

自分が2歳の頃に離婚をして、女手一つで自分を育ててきた母は、強い人間だった。働きに働きまくって、自分をノーローンで大学まで出したのだ。その母が泣いていた。実の父との永遠の別れは、そんな母の心の壁も砕いたのだ。

その後、震災のあった2011年に祖母も亡くなり、いよいよもって元々の実家のしがらみは無くなってしまった。祖父がどうしても売らなかった土地は、単に固定資産税を払い続けなければならない、世の中的には価値の無いものになってしまった。

それでも、祖父が最後まで守った土地だからという思いが、どうしても売りに出す気にさせなかった。

だが、昨年突然町役場の人が訪ねてきた。どうやら町が土地を買い上げるという話らしい。もう周りの土地の買収は済んでいて、あとはうちだけが残っている状態らしい。

正直言って、今のあの土地の価値は一坪数百円のレベルだった。だが、町はその相場の100倍以上の値段で買い取るという。どうやら町が何かの施設を誘致する計画があるらしい。

母は迷った。祖父の残した土地は、いわば形見のようなものである。だが、頑固に売らなかったとしても、そこには瓦礫しか残らない。ここに戻る予定はないし、瓦礫を撤去しようにも80万円くらいかかる。売らない選択肢は意味が無いようにしか思えなかった。

そんなこんなで、生まれ育った土地は町に売られることになった。

立ち退いてから数えるほどしか見に行っていなかった土地だったが、それでもなにか寂しい物があった。もう自分が帰るべきところはあそこではなくなったのだ。そう考えると、すこしグッと来るものがある。

母は、土地を売ったお金を自分に少し渡した。

「これで、なにか形に残るものを買いなさい。じいちゃんが最後まで守った土地なのだから、立派なものを買って大事に使いなさい」

母は、そういって自分にお金を渡した。すごい金額ではなかったが、一月分の基本給くらいはあった。

自分は、AppleWatchを買った。

ガジェット好きということもあるが、AppleWatchは一応ラグジュアリーアイテムだ。さすがにEditionは買えないが、Sportsでは安すぎるので、ノーマルのAppleWatchに発売されたばかりのスペースグレイのミラネーゼループを組み合わせて買った。小市民な自分にしてみれば、それまでに買ったどの時計よりも高級な時計だ。

AppleWatchはつまらない。

AppleWatchは意味が無い。

AppleWatchなんて売ってしまった。

そういう人もたくさんいるのは承知している。

だが、自分にとってこのAppleWatchは祖父の形見のような存在になった。

大事に使い続けようと思う。

ありがとう、じいちゃん。

大切に使わせてもらいます。

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